「換気をしたら、急に果実の甘さが落ちた」「朝ハウスに入ると、葉先が茶色くなっている」
こういう経験はありませんか。実はこれ、多くの場合、原因は「飽差」の管理にズレがあることです。
今日は、栽培初期に特に見落としがちな、飽差についてお伝えします。
飽差とは何か
飽差は、英語でVPD(Vapor Pressure Deficit)と呼ばれるものです。
これは、空気中に含むことができる水蒸気の最大量と、実際の水蒸気量との差のことです。簡単に言うと、「今の空気が、あとどれくらい水分を吸収できる余地があるか」を示す数値です。
飽差は、温度と湿度、両方を合わせて見て初めて分かる数値です。
たとえば、同じ湿度70%でも、気温が20℃のときと30℃のときでは、飽差の値は全く違います。
20℃・湿度70%
30℃・湿度70%
湿度だけ、あるいは温度だけを見ていても、植物が実際に置かれているストレスの大きさは分かりません。
飽差が乱れると何が起きるのか
① 飽差が高すぎる(乾燥しすぎ)
蒸散が促進されすぎて、根からの水分供給が追いつかなくなります。これにより、葉が水分ストレスを受け、光合成能力が低下します。
さらに、気孔が閉じてしまい、CO2を取り込めなくなることで、光合成効率そのものが落ちてしまいます。
② 飽差が低すぎる(湿りすぎ)
今度は、蒸散そのものが止まってしまいます。蒸散は、根から養分を吸い上げる「ポンプ」のような役割を担っているので、これが止まると、カルシウムなどの養分が葉先まで届かなくなります。これが、チップバーン(葉先枯れ)の正体です。
また、葉に水滴が付いた状態が続くと、灰色かび病のような病気が発生しやすい環境になってしまいます。
チップバーンの原因と対策は、イチゴの葉先が枯れる原因【9割がカルシウム不足】の記事でも詳しく解説しています。
栽培初期になぜ特に注意が必要なのか
栽培初期は、苗がまだ環境の変化に慣れていない、デリケートな時期です。
この時期に、換気のタイミングや開け方を誤ると、飽差が急激に変化する「飽差スパイク」が起きやすくなります。急な変化は、気孔閉鎖や、植物体そのものへのストレスの原因になります。
大事なのは、「暑くなったら開ける」という単純な判断ではなく、次の2つを別々に設定することです。
何度で開け始めるか
換気を開始する温度の設定です。
どのくらいの速さで開けるか
一定の温度に達したら全開にするのではなく、温度に応じて段階的に開度を上げていくことで、急激な変化を防げます。
換気で甘さが落ちた、と感じたときは、換気の「量」より、飽差が急に動いていないかを、振り返ってみてください。高温期の糖の話は、高温でイチゴの糖が消える4つの理由の記事で解説しています。
感覚だけに頼らないために
飽差は、温度と湿度、両方を組み合わせて初めて分かる数値です。感覚だけで「今日は乾燥しているな」と判断するのは、実はかなり難しいことです。
弊社では、この飽差を数値とグラフで見える化できる「飽差管理アプリ」を開発しています。温度と湿度を入力するだけで、自動的に飽差を計算し、今の状態がひと目で分かるようになっています。
アプリで使っている、飽差の目安は次のとおりです。
0〜3 g/m³ 高湿度環境
対処の目安:除湿・換気
3〜6 g/m³ 適切な飽差
対処の目安:現状維持
6〜10 g/m³ 許容範囲の飽差
対処の目安:加湿を検討
10〜15 g/m³ 低湿度環境(注意)
対処の目安:加湿・噴霧
15 g/m³以上 低湿度環境(危険)
対処の目安:緊急対処
※実際の管理は、品種・生育ステージ・栽培環境に合わせて、日ごろのご判断や指導員の助言とあわせてご利用ください。
経験や勘に頼りがちな管理を、数値で確認しながら進めたい方は、ぜひ活用してみてください。
飽差管理アプリを見るまとめ
- ✅ 温度・湿度を、それぞれ単体で見るのではなく、両方を組み合わせた「飽差」という視点を持つ
- ✅ 飽差が高すぎると水分ストレス、低すぎるとチップバーンや病気のリスクが高まる
- ✅ 特に栽培初期は、急激な飽差の変化(飽差スパイク)に注意。換気は「開け始める温度」と「開ける速さ」を別々に設定する
今日お伝えした内容を実際にやってみて、判断に迷うこともあると思います。そんな時は無料相談も承っています。
イチゴ栽培コンサルティングを見るそれでは、次回の記事でお会いしましょう。QS agriの桜間でした。

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